安全運転のポイント

6月の安全運転のポイント

いい運転、ハートフル
平成19年6月


  運転中、ドライバーはさまざまな予測をしながら走行しています。例えば、前方で子どもが遊んでいる場合には、「子どもが飛び出してくるかもしれない」と予測し、前車が右のウインカーを出せば、「右折や進路変更をするために減速や停止をするかもしれない」と予測します。このような「○○かもしれない」と危険を予測して運転することを、一般に「かもしれない運転」と呼んでいます。安全な運転をするためには、「かもしれない運転」を実践することが大きなポイントになりますが、ドライバーが常にそれを実践しているかといえば、必ずしもそうではないようです。実際、子どもが遊んでいる場合でも、「子どもが飛び出してくることはないだろう」と考えて漫然と運転しているケースもみられます。
 こうした自分に都合のいいように判断し危険を予測しない運転を、一般に「だろう運転」と呼んでいます。そこで今回は、事故につながる「だろう運転」について考えてみることにしましょう。

見通しの悪い交差点の場合
 まず最初に、見通しの悪い交差点にさしかかった場合を考えてみましょう。ここでドライバーが「自転車や車が出てくるかもしれない」と予測すれば、スピードを落として接近し、一時停止の標識や標示がある場合はもちろんのこと、標識等がない場合でも徐行や一時停止をして安全をしっかりと確認するでしょう。しかし、ここでドライバーが「何も出てこないだろう」と考えたとすればどうでしょうか。ドライバーは徐行も一時停止もせずに通過しようとするでしょう。どちらが事故を起こしやすいかは明らかであり、交差道路から出てきた自転車や車と衝突する危険が高まるでしょう。
見通しの良い交差点の場合
 見通しの悪い交差点では相手が見えませんが、相手の見える見通しの良い交差点ではどうでしょうか。接近してくる相手が見える以上、出会い頭事故は起こらないように思われがちですが、実はそうでもないのです。
 見通しの良い交差点での出会い頭事故は「田園型事故」とも呼ばれていますが、見えているにもかかわらず、なぜ出会い頭事故が起こるのでしょうか。その要因として、「自車の道路のほうが広く見えるので自車が優先だと錯覚しやすい」、「相手も自車と同じ速度で走行している場合には、常に同じ角度に見えるため相手が止まっているように錯覚しやすい」などの事柄があげられますが、それに加えて「自車のほうが先に行けるだろう」とか「相手が止まるだろう」といった自分に都合のいい判断に基づく運転、すなわち「だろう運転」も事故の要因としてあげられるでしょう。
 見通しの悪い交差点でも、また見通しの良い交差点でも、「だろう運転」が事故の大きな要因になっていると考えられますが、ここで留意すべきことは、自車だけでなく相手も「だろう運転」をしているから事故になるということです(図1)。実際、どちらかが「かもしれない運転」をしていれば、出会い頭事故は防げるはずです。しかし現実には、出会い頭事故は多発しており、警察庁がまとめた全国の交通事故統計をみても、ほぼ毎年、全人身事故の約4分の1は出会い頭事故です。これは「だろう運転」をしているドライバーが決して少なくないことを物語っているといえるのではないでしょうか。
 例えば、「自車のほうが先に行けるだろう」といった「だろう運転」の場合、見通しの良い交差点における右折時にも起こります。対向車が接近しているにもかかわらず、先に行けるだろうと考えて強引に右折し、対向車と衝突するというケースです。このように「だろう運転」はさまざまな事故の背後に潜んでいるように思われます。そこで、次に、最も多発している追突事故を例に考えてみることにしましょう。
追突事故と「だろう運転」
 追突事故を起こしたドライバーからよく聞かれる言葉の一つに、「まさか前車が停止するとは思わなかった」というものがあります。これはドライバーが「前車は止まらないだろう」と考えて走行していたことを示しているといえますが、前車が止まらないという保証はどこにあるのでしょうか。高速道路の場合でさえも、事故や渋滞などで前車が停止することはあります。ましてや一般道路の場合は、事故や渋滞だけでなく、交差点や脇道への右左折時や、あるいは道路沿いのレストランやガソリンスタンド、ショッピングセンターなどに入るための右左折時に減速・停止する車は少なくありません。それにもかかわらず「前車は停止しないだろう」と考えて走行すれば追突事故を起こすのも当然のことといえるでしょう(図2)。 
 「前車は止まらないだろう」というのは、根拠のない一方的な思い込みにすぎないのですが、この思い込みはかなり強いものがあります。なぜなら、追突事故の原因として、車間距離不足や脇見などがあげられますが、車間距離不足も脇見も「前車は止まらないだろう」という思い込みが前提になっていると考えられるからです。もし、前車がいつ停止するかわからないと考えて走行すれば、車間距離も十分にとるでしょうし、不用意な脇見もできないでしょう。その意味では、追突事故も「だろう運転」が事故の大きな要因になっているといってもよいでしょう。
 最近多発している横断中の高齢歩行者との事故についても、同様のことがいえます。このような事故の場合、ドライバーから「まさか横断してくるとは思わなかった」という言葉がよく聞かれますが、高齢歩行者は車が接近していても横断してくることがよくありますから、決して「横断してこないだろう」と考えてはならないのです。
カーブの単独事故と「だろう運転」
 「だろう運転」は、相手に対するものだけではありません。例えば、カーブを考えてみましょう。カーブでは、ガードレール等へ衝突するといった単独事故がよく起こります。この多くはスピードの出し過ぎが原因と考えられますが、ドライバー自身はスピードを出し過ぎていると思ってはおらず、むしろ「このスピードでもカーブを曲がることができるだろう」と判断して走行していたケースが大半だと思われます。しかし、実際には思っていた以上にカーブがきつかったために曲がりきることができずに事故になってしまったのです。したがって、単独事故の場合でも、「だろう運転」が要因として潜んでいると考えられます。
 カーブでは手前で十分に減速するということが安全運転の基本ですが、なぜ減速する必要があるのかといえば、カーブのきつさを的確に判断するのは難しく、「このスピードでもカーブを曲がることができるだろう」といった「だろう運転」になりやすいので、それを防止するために、あらかじめ減速するのだと考えることもできるでしょう。
 
 以上、「だろう運転」について考えてきましたが、日々の運転のなかで「だろう運転」をしてしまっているケースは意外に多いと思われます。特にベテランドライバーの場合は、長年の慣れや経験から、知らず知らずのうちにそのような運転になっていることもあります。絶えず自分の運転を振り返り、「だろう運転」をしていないかどうかをチェックして、常に危険を予測した「かもしれない運転」を実践するよう心がけましょう。