安全運転のポイント

2月の安全運転のポイント

いい運転、ハートフル
平成19年2月


 運転行動は、「認知・判断・操作」で成り立っているといわれます。前方の交差点の信号が赤に変わった場面でいえば、まず信号が赤に変わったことを認めます。これが「認知」です。次に、赤は「止まれ」だから停止しようと考える、これが「判断」です。そして停止するためにブレーキを踏む、これが「操作」です。この一連の運転行動が的確に行われていれば事故を起こす危険性は低いといえますが、どこかでミスが生じると事故を起こす危険性が大きくなります。
 例えば、赤信号を見落とす(認知ミス)、赤信号は認めたものの停止せずに交差点を走り抜けようと考える(判断ミス)、停止しようとしてブレーキを踏むつもりが誤ってアクセルを踏む(操作ミス)などです。したがって事故を防止するためには、「認知・判断・操作」に係るミスをできるだけ抑えることが重要なポイントになります。

運転時の心理状態もミスの大きな要因となる
 ミスを防ぐには、まずミスの要因を考えてみる必要があります。ミスの要因にはさまざまなものがあります。現在、飲酒運転に対する罰則の強化が予定されていますが、飲酒もミスを招く極めて危険な要因ですし、疲労や、自分の運転がうまいといった運転テクニックに対する過信、相手に道を譲らないといった自己中心的な運転態度もミスの要因となります。また、カッカと怒った状態やイライラした状態、焦った状態などの心理状態もミスを招く大きな要因となります。特に、怒り、イライラ、焦りなどの心理状態は、誰にでも起こり得ることですから、決して他人事として済ませてしまうわけにはいきません。実際、カッカした状態で運転して重大な人身事故を起こしたという事例もあります。
 
親子二人に重傷を負わせた事例
 無事故を続けている運転歴20年のAさんが、書類の整理を終えて車で営業活動に出かけようとしていると取引先から電話がかかってきた。"予定時刻になっても発注物が納品されない"というクレームだった。Aさんは、調査する旨伝えて一旦電話を切り、納入業者に連絡をとった。最初は相手から事情を冷静に聞いていたが、相手の対応が悪かったせいか、ある時点で顔色が変わり怒鳴り声になった。普段は穏やかで怒鳴ることもほとんどなかったので、周囲が少し驚くほどだった。そうしたやりとりがしばらく続いて、Aさんは電話を切り憤慨した表情で会社を出て駐車場に向かい、車に乗って出発した。
 片側1車線の道路を走行中、前方左側に子供を後ろに乗せた自転車を認め、さらにその先に駐車車両を認めた。しかし、Aさんは"自車が接近しているのだから自転車が右に進路を変えてくることはないだろう"と考え、特にスピードを落とすこともなく追い抜こうとしたところ、駐車車両を避けようと自転車が右側に寄ってきた。あわててAさんはブレーキを踏んだが、間に合わず接触してしまい自転車は転倒し、親子二人に重傷を負わせてしまった。
 
カリカリした状態が的確な予測や判断を妨げた
 Aさんの事故を振り返ってみましょう。
 この事故は、Aさんが自転車の動きを予測せず、スピードも落とさないままに走行したために発生したものです。自転車の前方に駐車車両があり、自転車の進路を塞いでいれば自転車がそれを避けるために右に寄ってくることは十分予測できます。実際、いつもの平静で穏やかなAさんであれば、当然それを予測したでしょうし、それ以前に、子供を乗せた自転車は不安定でふらつくかもしれないと考えて、スピードを落として接近したでしょう。そして自転車が駐車車両を追い越していくのを待ってから、十分な側方間隔をとって自転車を追い抜いたと考えられます。
 しかし、そのときのAさんはカリカリとしていたために心の余裕が失われ、相手の動きを読むことも相手に道を譲ろうという気持ちも薄れていました。それが"自転車は右に寄ってこないだろう"という判断ミスにつながり事故に至ったわけです。その意味では、カリカリして冷静さを失った状態で車に乗り込んだその時点で、すでにAさんは事故の大きな要因を抱え込んでいたといえます。
 
運転する前に心を静める
 平静さが失われれば、的確な認知も判断も操作もできず、事故を起こす危険性が高まります。したがって、平静さを保ち、落ち着いた気持ちでハンドルを握ることが、安全運転のための前提条件となります。運転する前に、カリカリしていないか、イライラしていないかなどを自己チェックするとともに、そうした状態にあるときは深呼吸をするなどして、心を静めてからハンドルを握るようにしましょう。
 また、車に乗り込むときには冷静な状態であっても、走行中に他車に無謀な割込みや追越しなどをされて、カッとなるというケースや、思わぬ渋滞に巻き込まれてイライラしたり焦ったりするケースもよくあります。こうしたときはまさに自分の心が赤信号だと考えて、安全な場所に停止して気持ちを落ち着かせるようにしましょう。
 
自律訓練法
 自律訓練法とは、ドイツの精神科医シュルツによって創始されたもので、ストレスの緩和や不安の軽減、疲労回復などに効果があるとされ、メンタルヘルスの面で活用されています。
 一般的な進め方としては、まず、ゆったりとした姿勢で椅子に座り、目を閉じて気持ちを落ち着かせます。次に、@〜Eを心の中で唱えます。これは一種の自己催眠状態とするためです。
@ 手足が重い
A 手足が温かい
B 心臓が静かに脈打っている
C 呼吸が楽になっている
D おなかが温かい
E 額が涼しい
 @〜Eが終わると、リラックスして手足や腹部が温まるような感覚になるとされています。最後に両手を握って大きく伸ばしたり、首や肩を回すなどして、自己催眠状態から覚めるようにします。この 自律訓練法は最大でも1回5分以内とされており、慣れてくれば車の中でも実施できると思われますので、心を静める方法の一つとして活用できるでしょう。