安全運転のポイント

3月の安全運転のポイント

いい運転、ハートフル
平成16年3月


 「急ぎの気持ちがあった」→「やってはいけない運転行動をした」→「衝突」のように多くの事故の背後要因として「急ぎの心理」があります。例えば、「急ぎ・あせりがあり、つい一時停止を怠って、出会い頭衝突になった」「車間距離が詰まり、追突してしまった」などです。
 今回は、事故の背後要因としての、この「急ぎの心理」についてまとめてみました。

人間の本能としての「急ぎの心理」
 人はなぜ、急ぎの心理になるのでしょうか。
 人間にはもともと、「他人よりも先に行きたい」という本能的欲求があります。さらに、車の運転に関しては、アクセルを踏むだけでどこへでも走ってくれるというたいへん便利で快適な環境におかれるため、その本能的な欲求が現れやすくなるといえます。
 人間の本能的な「急ぎの心理」に関して、九州大学の松永教授は次のように解説されています。「人(他の動物も)が最も優先する行動は、生命保存のための行動です。生命保存のための行動で最も重要なものは、食料獲得の行動です。食料を獲得するためには、食料がなくならないうちに食料のあるところに到着している必要があります。すなわち他人よりも先行することが必要なのです。このような食料獲得という生存競争を我々の祖先は長い間繰り返してきたに違いありません。したがって、この先急ぎの行動メカニズムは遺伝的に我々に与えられていると考えられます。」(日本交通心理学会編「人と車の心理学Q &A100 」)
 私たちが道を歩いていて他の人に追い越されるだけでも不快に感じることがあるように、このような、先急ぎの本能は日常のいろいろな場面で実感するところです。
 しかし、このような先を急ぐ本能が私たちの中に潜在的にあるからといって、常にやみくもに急いでいるわけではありません。ふだんは、この急ぎの心理をなんとか押さえて生活しています。ところが上記のように、車の運転という便利で快適な環境におかれると、わずかなきっかけで、この本能的な急ぎの心理が顔を出してくるのです。
 
「急ぎの心理」が顔を出すとき
 どのようなときに、ドライバーは「急ぎの心理」になるのでしょうか。
 急ぎの心理になるケースを大きく分けると、@最初から急いでいたケース、A当初の予定が狂って途中から急ぐケース、B運転中突発的に「急ぎの心理」になるケース、Cその他、になります。
 @の最初から急いでいたケースは、自分の仕事の段取りに関するもの、得意先や友人、家族などが関与するものです。例えば、「準備に手間取り出発が遅れた」「業務が多忙」「約束の時間に間に合わせる」などです。Aの当初の予定が狂って途中から急ぐケースは、自分のミスに関係するもの、交通状況など外的な理由によるもの、社内や得意先の都合によるものなどです。例えば、「道に迷う」「忘れ物をした」「渋滞に巻き込まれた」「会社から予定外の仕事の連絡が入った」などです。いずれも、時間の余裕がなく、それを取り戻そうとするための「急ぎの心理」です。
 これに対し、Bの運転中突発的に「急ぎの心理」になるケースとCのその他は、時間的な制約はなく、急ぐ必要性がないときでも運転中何かのきっかけで突発的に「急ぎの心理」になるものです。皆さんは、このようなご経験はありませんか。
表 運転中に突発的に急ぎの心理になるきっかけの例
区分 「急ぎの心理」になるきっかけ(例)
  他車の動きによるもの
前の車がノロノロしている
後続車がピッタリつけてきた
大型車の後についた
  道路環境・状況の変化によるもの
踏切待ちが長い
赤信号で待たされる回数が多い
いつも待たされる踏切に近づいてきた
信号の変わり目がもうすぐ来る
歩行者用信号機の点滅が目に入った
  同乗者などの存在によるもの
同乗者に運転がうまいと思われたい
案内の同乗者が道をよく知らず、イライラする
  その他
車を運転すると早く走らなければ気がすまない
かっこうのいい車に乗っている
 
急ぎの心理への対処
 急ぎの運転は一般には、信号無視や一時停止の無視、安全不確認などの「ルール違反」の運転をしがちになるほか、運転操作に関しては、無理な追越し、車間距離を詰めて走る、車線を頻繁に変更する、クラクションを鳴らすなど、ふだんよりも荒っぽく、危険な行動をとる傾向があります。全般にスピードが出ているので、これらの運転は大きな事故につながりやすいことはいうまでもありません。運転中の急ぎの心理に対処するため、以下のことを励行しましょう。
1. 急ぎの要因をつくらない
出発時間に十分余裕をもちまた余裕のあるスケジュールで運転するために、仕事の段取りをしっかり行う。忘れ物のないようによく準備をする。途中遅くなりそうなときは、相手方との連絡を優先するなど精神的負担を軽くする。また自分のミスで時間が足りなくなったような場合、急ぎの運転で取り戻そうとしない。
2. 「急ぎは得ならず」を深く認識する
道路には交通標識、標示、信号があり、急いだからといって、ドライバーの思うとおりに進めるものではない。急ぎの運転をしてもわずかな時間短縮しかできず、逆に事故の可能性が高くなることを考えれば、決して得になることはない、という点をしっかり認識する。
3. 急ぎの気持ちをセルフコントロールする
「自分はいま急ぎの気持ちになっている、あせっているな」と、自分を客観的に冷静に見つめることができるよう習慣づける。「注意一秒、怪我一生」など我に返る言葉や、家族の写真など見ることによって気持ちが落ち着くものを用意しておく。
4. 急いでいるときこそ、「呼称運転」をしてみる
急いでいるときこそ、安全確認は欠かせない。交差点通過時などに「信号よし」「横断歩道よし」など、確認結果を声に出す「呼称運転」を実践してみる。